事業承継
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- 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律はなぜ必要なのですか?
- 日本の中小企業は日本経済の基盤ですから、経営承継は雇用の確保や地域経済活力維持の観点からきわめて重要です。
中小企業では経営者としての地位の維持や安定の為、また、迅速な意思決定や柔軟な対応といった中小企業のアドバンテージを活かす為、経営権の承継は必要不可欠です。
しかしながら、現状は承継について十分な準備をしている中小企業は少なく、中小企業の持つ貴重な技術力やノウハウの散逸も懸念されています。
そこで円滑な経営承継を支援するために相続時の遺産分割や資金需要、税負担の問題等への総合的な支援策を講じる必要から、平成20年10月1日に施行された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が施行されました。
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- 中小企業における経営承継の円滑化に関する法律の中身はどのようなものですか?
- この法律では中小企業の円滑な経営承継を図るうえで、 次の3つを大きな課題として捉え、その課題に対応するべく3つの制度が創出されました。
課題①:自社株などの承継に関する民法の遺留分による制約 ⇒ 遺留分に関する民法の特例
課題②:事業承継時の資金調達の困難性 ⇒ 金融支援制度
課題③:事業承継時の相続税負担 ⇒ 相続税の課税についての特例措置
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- 各制度はすべての企業に対象になるのですか?
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各制度の支援対象範囲は資本金、従業員数及び業種に応じて定義された中小企業に該当する必要があります。
具体的には次のとおりです。
資本金 又は 従業員数 製造業
その他3億円以下 300人以下 卸売業 1億円以下 100人以下 小売業 5千万円以下 50人以下 サービス業 100人以下
※一部政令により範囲を拡大した業種があります。(黄色部分を拡大)
資本金 又は 従業員数 ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造並びに工業用ベルト製造業を除く) 3億円以下 900人以上 ソフトウェア・情報処理サービス業 3億円以下 300人以下 旅館業 5千万円以下 200人以下
なお、中小企業に該当した事業所に対して、各制度は以下の分野につき適用があります。
- 遺留分に関する民法の特例は法人の株式が対象
- 承継に関する金融支援は個人・法人が対象
- 課税の特例は法人が対象
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- 遺留分とは何ですか?
- 相続・遺言のQ&AのQ34をご覧ください。
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- 遺留分に関する民法の特例制度はどのようなものですか?
- この制度では大きく分けて次の2つの制度が導入されています。
- 遺留分算定基礎財産から除外できる制度(除外合意)
後継者が引き受けた株式が遺留分により他の相続人に渡ると、経営を安定できる株式が持てなくなる危険性があるため、これを事前の承諾で除外できるようになりました。
- 贈与株式の評価額を合意した時点の評価に固定できる制度(固定合意)
株式を相続開始時の価額で計算すると、後継者の貢献により何もしていない他の相続人の相続価額も増加するため、承継者のモチベーションを下げないように評価額を合意時点で固定できるようになりました。
- 遺留分算定基礎財産から除外できる制度(除外合意)
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- 遺留分に関する民法の特例制度が適用される要件はなんですか?
- 民法特例の適用を受ける対象会社、先代経営者、後継者の要件は次の通りです。
- 対象会社・・・「特例中小企業者」(円滑化法3条1項、規則2条)
遺留分に関する合意をする時点で次の要件を全て充たすもの者(会社)- 「中小企業者」(同法2条)
- 3年以上事業を継続
- 非上場会社
- 先代経営者・・・「旧代表者」(同法3条2項)
遺留分に関する合意をする時点で次の要件を全て充たすもの者- 対象会社の旧代表者または現代表者
- 自社株(完全無議決権株を除く)を他人に贈与したことがある者
- 後継者・・・「後継者」(同法3条3項)
- 自社株を先代経営者から贈与を受けた者(特定受贈舎)、またはその者から相続、遺贈、贈与により取得した者
- 対象会社の代表者である者
※ 先代経営者の推定相続人である必要はありません(平成28年4月1日~)
- 対象会社・・・「特例中小企業者」(円滑化法3条1項、規則2条)
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- 遺留分に関する民法の特例制度の適用を受けたい場合の手続はどのようなものですか?
- 制度の適用を受けるためには大まかに次の手続を順に行う必要があります。
- 推定相続人すべての書面による合意が必要です
推定相続人全員で遺留分に算入しない合意や遺留分の算定価額を合意時の価額に固定する合意を行い、その内容を書面にします。
- 経済産業大臣の確認が必要です
この手続きで経済産業大臣が確認する事項は次の通りです
- 当該合意が対象会社の経営の承継の円滑化を図るためにされたものであること
- 合意をした日に、申請者が後継者(同法3条3項)であったこと
- 合意をした日に後継者が所有する自社株のうち合意の対象としたもの以外の議決権数が総株主の議決権の半数以下であつたこと
- 非後継者が取りえる措置の定め(第4条第3項)があること
- 家庭裁判所の許可が必要です
経済産業大臣の確認を受けた後、合意内容の効果を発生させるために、家庭裁判所に対し「遺留分の算定に係る合意の許可」の申立を行います。
【申請者、申立人】・・・経産大臣の確認申請、家裁の許可申立てはいずれも後継者が行う。
【期間制限】
① 経産大臣の確認申請・・・除外合意や固定合意をした日から1カ月以内。
② 家庭裁判所の許可申立・・・経産大臣の確認を受けた日から1カ月以内。
【合意の効力発生】・・・家庭裁判所の許可が確定したときに効力が生じます。出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構
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